時論公論 「"派遣法"改正で雇用はどうなる」

2015/04/30
時論公論 「"派遣法"改正で雇用はどうなる」
NHK     村田 英明 解説委員

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派遣労働の規制を大幅に緩和する労働者派遣法の改正案が、
みたび国会に提出され、早期成立をめざす政府・与党に対し、
廃案をめざす民主党などの野党が対決姿勢を強めています。
実は、今回の改正は正社員中心の日本の雇用のあり方に見直しを迫るもので、
影響は派遣労働だけに止まりません。派遣法見直しの課題について考えます。

そもそも派遣労働というのは例外的な働き方です。
同じ非正規雇用でも契約社員やパート、アルバイトは
自分が働く会社と直接、雇用契約を結ぶ「直接雇用」で、
これが本来、法律で認められた働き方です。

これに対して派遣労働は「間接雇用」です。
派遣先の会社には仕事を指揮命令する権限はあっても
雇用を守る責任はありません。
雇用契約を結んでいるのは派遣会社だからです。
雇い主と実際に働いている会社が異なることが
景気が悪化した際の安易な雇い止めにつながり、
不安定な雇用を生み出してきたのです。

実は、派遣労働は、戦後、法律で禁止されていました。
戦前に横行していた仲介業者による中間搾取や強制労働から
労働者を守るためです。
しかし、1960年代に人材派遣ビジネスがアメリカから導入され、
外国語の翻訳や電算処理などを外部委託する企業が増えたことから、
1985年に「労働者派遣法」が作られました。
ソフトウエア開発や、通訳、秘書など
13の「専門業務」に限って派遣労働を例外的に認めることにしたのです。
その後、規制は徐々に緩和され、専門業務は26に拡大。
さらに、事務や軽作業などの「一般業務」も対象となり原則自由化されました。
そして、2003年には、影響が大きいとして禁止されてきた
「製造業への派遣」が解禁となり、
派遣労働者の数は、2008年のピーク時には、200万人を突破します。
そうした中で起きたのがリーマンショックにともなう「派遣切り」の問題です。
突然、契約を打ち切られ、会社の寮を追い出されるなど
行き場を失った人たちが真冬の日比谷公園に集まりました。
大勢の労働者が炊き出しで飢えを凌いだ「年越し派遣村」の出現は、
派遣労働が抱える問題を浮き彫りにしました。

こうした問題を受けて、
3年前には、30日以内の日雇い派遣を禁止するなど
国は規制の強化に乗り出していたのですが、
多様な働き方の実現をめざす「アベノミクス」のもとで、
ふたたび規制が緩められようとしています。
では、今回の改正のポイントは何でしょうか。
一言で言えば、
「同じ職場で派遣労働者を何年でも使えるようになる」ということです。
同じ職場への派遣期間は、今は、専門性を必要としない一般業務は、
原則1年、最長3年までしか働くことができません。
何年も、続けて働けるのは、専門性を必要とする26業務に限られています。
しかし、この26業務の中には、資料を整理する「ファイリング」や
パソコンを使って会議の資料などを作成する「事務用機器操作」など
社員でもできる仕事が増えてきて実態と合わなくなっていました。

そこで、改正案では、26業務の区分を撤廃することにしました。
専門と一般の区別をなくし、すべての業務で、
1人の派遣労働者が同じ職場で3年まで働くことを認めるようにしたのです。

ただし、3年までしか働けないのは、Aさんという個人です。
Aさんの後はBさんというように3年ごとに人を替えれば、
同じ職場で何年でも派遣労働者を使えるようになります。
こうした派遣期間の延長について、
派遣先の会社は、労働組合の意見を聴かなければなりませんが、
同意を得る必要はなく、経営者の裁量で決めることができます。

今回の改正は、派遣で働く人からみれば、
26業務で期間を制限されずに働いてきた人たちが、
同じ職場で3年までしか働けなくなり、
新たな派遣先を探さなければならなくなるデメリットがあります。
このため、改正案では、
派遣会社が雇用期間に定めがない「無期雇用」の契約を
派遣労働者と結んでいる場合は派遣期間を制限しないことにしました。

ただ、今は派遣労働者の8割以上が雇用期間が限られる「有期雇用」です。
IT業界などに派遣されるエンジニアなど専門的な仕事では、
派遣会社が「無期雇用」で契約している場合がありますが、
そうした雇用契約が広がらなければ職を失う人が出てくるおそれがあるのです。
一方、企業にとっては、
すべての派遣労働者を同じ職場で使い続けられるメリットがあり、
そうなれば、派遣労働は、
もはや、一時的、臨時的な仕事ではなくなります。
派遣法が目的としてきた「常用代替の防止」、
常に雇用されている正社員の仕事が
派遣労働に取って代わられるのを防ぐという意味ですが、
これが難しくなります。

正社員の仕事が派遣労働に置き換えられて、
不安定な雇用が拡大するおそれがあるとして、
労働組合などが法律の改正に強く反対しているのです。
また、派遣で働く人たちも
不安定な働き方を望んでいるわけではありません。
厚生労働省が、おととし行った調査では、
派遣で働いている理由で最も多かったのは、
「正社員として働きたいが職が見つからなかった」で4割近くを占めました。
そして、希望する働き方については、
「正社員として働きたい」がおよそ6割で
「今のままの働き方がよい」を大きく上回っています。

このように、派遣労働者の多くが、
雇用や収入が安定した正社員になることを希望しています。
ですから、国は派遣で働きたいという人たちの雇用は守りながらも
正社員の雇用の拡大に力を入れるべきですが、
今回の見直しは、そうなっていません。
多様な働き方の1つとして派遣労働を増やすのであれば、
その前提条件として正社員並みの処遇が保障されなければならないと思います。
そうした処遇の改善について、
改正案は「雇用安定措置」という新たな取り組みを
派遣会社に義務づけることにしています。
具体的には、
派遣期間が終了する時に
派遣会社が派遣先に「直接雇用」を依頼します。

そして、採用されなかった場合は、
新たな派遣先を紹介するか、派遣会社と無期雇用の契約を結ぶことを
義務づけて雇用を安定させようというのです。

ただ、こうした措置が義務づけられるのは派遣期間が3年に達した場合だけで、
3年未満では「努力義務」に止まり、
十分な成果をあげられるかどうか疑問が残ります。
また、派遣会社と無期雇用の契約を結んでも処遇が改善されるとは限りません。
無期雇用、イコール、正社員ではないからです。
今回の改正を見越して派遣会社の間では、
雇用契約を有期から無期に切り替える動きが出ています。


取材した、ある派遣会社では、
有期雇用の派遣スタッフのおよそ3割を
今後5年で無期雇用に切り替える計画です。
無期雇用にすれば、
スタッフを3年以上、同じ職場に派遣できるようになるので、
派遣契約を増やせるのではないかといった経営上の思惑があります。
ただ、派遣スタッフにしてみれば、
正社員のように定期昇給があるわけでも
退職金がもらえるわけでもありません。

このように処遇が変わらないまま派遣労働を続ける人が増えれば、
所得の低い非正規労働者がさらに増え、正社員との格差は広がるばかりです。
今回の派遣法の見直しは、派遣労働者だけの問題ではなく、
正社員を含めた雇用全体に影響を与える大きな問題です。
派遣という働き方が必要ならば、
ヨーロッパのように「同一労働・同一賃金」、
仕事の内容が正社員と同じであれば同じ賃金や待遇を与えるという
制度の導入についても真剣に考えるべきだと思います。
労働者派遣法の改正案は、連休明けにも国会で審議が始まる見通しです。
派遣労働者の処遇をどうやって改善するのか、
正社員との格差の解消をどう進めるのか、
働く人の立場にたって議論を深めるとともに、
そもそも、派遣労働を増やすメリットはどこにあるのか、
政府には納得できる説明を求めたいと思います。
(村田英明 解説委員)

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